2005年 11月 06日 ( 1 )

ビッグ・サプライズ!!


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財団法人 渋沢栄一記念財団発行 11月号「青淵」



薬指が少しだけ動きました。

彼は、十五歳の目の澄んだ少年です。その笑顔で一生懸命なにかを訴えています。なんとか彼の考えていることを、少しだけでも伝えたいという気持でパソコンボランティアのサポートに手を挙げました。

普通の幸せな家庭に異変がおきたのは、少年が生後九ヶ月の時でした。絵本とお散歩の大好きな赤ちゃんでした。ある日、いつものようにお兄ちゃんと仲良くトランプ遊びをしていたところ、突然吐き、痙攣を起こしました。すぐに救急車で緊急病院に運ばれましたが、突発性発疹から、脳炎になってしまいました。彼は自分の言葉も、体の動きも奪われてしまいました。

ご家族の生活は一変しました。普通の生活から、常に病院に通い、鼻に管をつけて体も不随運動があり、一日中目を離せない状況になりました。あまりにもつらい現実に直面しながらも、健気にもお母さまは

「この子が、生きていてくれさえすれば、それだけで幸せなんです。」

そんな言葉を、明るく笑って語ってくださったのが印象的でした。同じ子供をもつ母親として、気持ちが十分に理解できました。そんな気持ちを十分解っている十五歳の少年も、きっと一言「お母さん ありがとう」と自分の言葉で伝えたいはず・・・初めて少年に会った時から、そんな気がして仕方ありません。

桜も葉桜になった頃、彼が好きそうなソフトを用意して意気揚々と自宅に伺いました。学校でも「意思伝達」という授業でパソコンを経験している彼には、あまりにも子供っぽいゲームに「フン!」といいながらもかなり興味がありそうでした。

紫陽花が満開の頃、彼が夢中になってパソコンの画面をみていたのに、私が間違ってパソコンの電源を抜いてしまいました。その時、初めて大声をあげて怒りました。やっとこの頃から、心を許してくれるようになったのでしょう。彼の一番のお気に入りはゲームです。でも不随運動があるため普通のマウスでは操作できません。学校で使っているツースウィッチや、ジョイスティックで、挑戦してみましたが、あともう少しなのになかなか思うようにマウスカーソルが動きません。でも諦めずに真剣でした。

こうやって少年と接しているうちに、彼の感性の素晴らしさと勘のよさに何度も驚かされました。
早くそれを、世間に知らせたい、「慌てない、ゆっくりじっくりとね。」少年に言いながらも自分にも言い聞かせていました。そのためにもなんとか彼にあうマウスを見つけないといけません。

最近は、パソコンは意思伝達装置として、いろいろな障害に対応できるようになりました。例えば、ALSや筋萎縮障害の患者さんのために、脳波や、眼球の動きだけでパソコンを通して意思伝達ができます。また足の指一本だけでも、パソコン操作はできます。体のどこかが自分の意思で動くところがあれば、意思表示ができます。少年の場合は、不随運動があり、また長時間固定されると体力の消耗が激しく少年の負担になってしまいます。

でも、必ず彼に合うパソコン操作があるはずです。サポートの度に、目、まぶた、足の指、手首、そして指は?いつも気にしていました。祈るような気持ちで、毎回手を握っていました。


すると・・・ある日、話をしながら、握っていた左手のくすり指が、返事のようにかすかに動きました。思わず「動いたわ!動いたわよ。」彼が吃驚するぐらい大声をあげてしまいました。いったいなにが起きたのやら、当の本人はきょとんとしていました。

早速にいろいろな手作りマウスのメーカーを調べて、養護学校の先生にも見ていただいていました。きっとそれを活用できるまでは、まだまだ時間がかかると覚悟しています。

今の目標は五年後!二十歳になった彼の成人式には、少年の言葉でご両親に手紙を書くことです。この夢を諦めずに一緒にゆっくりじっくりとサポートを継続していこうと心に決めました。
二十歳の日に、彼がどんな手紙をご両親に書くのか、、そしてご両親は?
「ビッグ・サプライズ!」今からとっても楽しみにしています。
                                        NPO法人カルミアネット
                                            理事長 祢津順子
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by netsu-happy | 2005-11-06 17:50